肺癌は切除するべきか?
研修医の頃から25年間ほど肺癌を診てきた。
手術手技としては後側方切開から前方腋窩切開、小開胸からポート孔へと傷はどんどん小さくなり、現在は完全内視鏡手術からロボット手術の時代と、あたかも難しい手術をこなしているようであるが、治療方針としては25年前とほとんど変わりがない。
肺を剥離して血管と気管支を処理して肺を取り出し、リンパ節をきれいに取り去るだけだ。
リンパ節は切るべきか?
ある程度大きな肺癌を切除することに異論のある外科医はいない。しかしリンパ節郭清はどうか。
消化器外科領域のリンパ節郭清の流れから続けてきた縦隔リンパ節郭清では果たしてどれほど意義があるのか、高いエビデンスで説明できる医師は少ないだろう。免疫チェックポイントの登場以来「近い将来リンパ節郭清がなくなる日が来る」と話す研究者が現れ始めている。リンパ節は免疫細胞が待機する最前線だ。
「免疫の防波堤を切除して、癌を制御するのは困難」と考えるのが妥当ではないだろうか。
免疫の力でがんが消える?
私自身は2014年、免疫チェックポイント阻害薬の登場から呼吸器外科を諦め、漢方と外科の融合を目指した。
免疫チェックポイント阻害薬の作用機序は「細胞性免疫のブレーキを外す」と説明される。
癌細胞を攻撃するのではなく、自分の免疫細胞が癌細胞を攻撃する手助けをする治療薬である。癌細胞を攻撃するのは薬ではなく自分の細胞であり、自己免疫によって癌細胞を死滅させうると示している。
「自己の免疫で癌は排除できるのでは?」
臨床現場で癌を扱う医師であれば一度は考えたことがあるだろう。
非常に稀ではあるが内視鏡やCTで癌に見える影が、数ヶ月後の再検査で消えていることがある。
これは前癌病変のような炎症像が消えているのだろうが、実臨床においては「疑わしきは罰する」ということで切除することがほとんどだ。
現在の医療現場で「癌になるかもしれない影」を放置することはできないのである。
手術をしなくても治る未来へ
以前はこのような経験はごく小さな微小癌であった。それが免疫チェックポイント阻害薬の登場で、ある程度の固形癌でも「消えてしまうことがある」と分かってきているのである。
2020年現在、免疫チェックポイント阻害薬で「消えてしまう」現象はせいぜい2割程度にしか見られない。しかしながら5年前の医療なら100%死んでしまう集団の2割が生存し、その割合は今後も新薬の開発とともに上昇していくのである。2018年にがんで亡くなった日本人は37万人。
その2割以上が死ななくなれば、どんな世界になるだろうか。かつての結核治療のように、呼吸器外科医が肺癌を切除しなくてもいい時代が来ることを期待したい。
(参考資料:国立がん研究センター最新がん統計 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html)
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